光のパイプオルガン

「告別」 (宮沢賢治/1925.10.25)
 
おまえのバスの三連音が
どんなぐあいに鳴っていたかを
おそらくおまえはわかっていまい
その純朴さ希みに充ちたたのしさは
ほとんどおれを草葉のようにふるわせた
もしもおまえがそれらの音の特性や
立派な無数の順列を
はっきり知って自由にいつでも使えるならば
おまえは辛くてそしてかヾやく天の仕事もするだろう
泰西(たいせい)著名の楽人たちが
幼齢弦(ようれいげん)や鍵器(けんき)をとって
すでに一家をなしたがように
おまえはそのころ
この国にある皮革の鼓器(こき)と
竹でつくった管とをとった

けれどもいまごろちょうどおまえの年ごろで
おまえの素質と力をもっているものは
町と村との一万人のなかになら
おそらく五人はあるだろう
それらのひとのどの人もまたどのひとも
五年のあいだにそれを大抵無くすのだ
生活のためにけずられたり
自分でそれをなくすのだ
すべての才や材というものは
ひとにとゞまるものでない
ひとさえひとにとゞまらぬ

云わなかったが、
おれは四月はもう学校に居ないのだ
恐らく暗くけわしいみちをあるくだろう
そのあとでおまえのいまのちからがにぶり
きれいな音の正しい調子とその明るさを失って
ふたたび回復できないならば
おれはおまえをもうもう見ない
なぜならおれは
すこしぐらいの仕事ができて
そいつに腰をかけてるような
そんな多数をいちばんいやにおもうのだ
もしもおまえが
よくきいてくれ
ひとりのやさしい娘をおもうようになるそのとき
おまえに無数の影と光りの像があらわれる
おまえはそれを音にするのだ

みんなが町で暮したり
一日あそんでいるときに
おまえはひとりであの石原の草を刈る
そのさびしさでおまえは音をつくるのだ
多くの侮辱や窮乏の
それらを噛んで歌うのだ
もし楽器がなかったら
いゝかおまえはおれの弟子なのだ
ちからのかぎり
そらいっぱいの
光りでできたパイプオルガンを弾くがいゝ

この詩を読むと気合が入る。
初めて知ったのは、マンガの「編集王」。
気がついたら涙が出ていたよ。
この詩が出てくるシーンについて語らいたいから、みんなで編集王を読もう。

11月27日 渋谷屋根裏
レコ発ファイナル
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