11年目の初勝利

柴崎貴広という29歳の大男がいる。
職業はプロサッカー選手、J2東京ヴェルディのゴールキーパーだ。

彼はプロになってから今年で11年目。
しかし去年まででリーグ戦には5試合しか出場したことがない。

ゴールキーパーというのはとにかく流動性が少ないポジションで、常時一人しか出られないうえに、ケガや退場以外の理由で試合中に交代することはありえない。
また別のポジションで試合に出る可能性もゼロである。
よって他のポジションと比べ圧倒的に序列ができやすく、同じ人間がずっと試合に出続けることが当たり前なのだ。
それにくわえ、身体能力と同等に経験を重視されるポジションでもあり、経験豊富な選手を後発の選手が追い抜くのは非常に困難である。

柴崎はいくつかのチームを渡り歩いてきたが、ずっと二番手、三番手の立場だった。
今の東京ヴェルディでも、元日本代表の土肥という絶対的な守護神のリザーブであり続けた。

また柴崎はこれまでの数少ない試合出場経験の中で、一度も勝利したことがなかった。
11年間プロでやってきて、一度もチームが勝利をする瞬間、ゴールマウスに立っていたことがないのである。


しかし、東京ヴェルディの熱烈なサポーターは、彼が何年もずっと練習で頑張り続けてきたことをよく知っている。
もちろんチームメイトもそれをよく知っている。


そんな柴崎が、昨日行われた岐阜戦で、プロになって初めての勝利を味わった
土肥が前節でアキレス腱断裂の重傷を負い今季絶望となった中で出場、チームは見事勝利したのである。
また昨日の勝利は、東京ヴェルディにとっての今季初勝利でもあった。




ずっとサッカーを見ていると、サッカーが好きで良かったな、と思える瞬間があります。
昨日の試合後、サポーターに挨拶する柴崎の表情を見て、サッカーって素晴らしいぜ、って心から思えました。